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古民家を受け継ぐ ―雨漏りの修繕から始まった、横浜市歴史的建造物の再生と「火」を囲む暮らし―

古民家を受け継ぐ

横浜市認定の歴史的建造物である築100年の古民家。雨漏り修繕を機に始まった改修は、かつての暮らしの記憶を呼び覚まし、囲炉裏を囲む現代の憩いの場となりました。家具と建築が融合する、オークヴィレッジならではの再生の物語です。

施主との繋がりから始まったものづくり

施主とオークヴィレッジとの繋がりは、既存の木造建物に発生した白蟻に対する安全な駆除方法のご相談から始まり、他社製箪笥の修理、茶道を楽しむための水屋・縁側の改修、外構工事、最近では、やむを得ず伐採した敷地内のケヤキ材を活かした店舗家具の製作など、家具・建築の両面で長きにわたりお付き合いを重ねてきました。

前回工事では、お茶会などを楽しむための水屋と縁側部分の改修を行いました。

今回のご依頼は、古民家(母屋)と既存建物との接合部での雨漏り改善がきっかけでした。この母屋は大正元年(1912年)に建てられ、築百年を越える建物で、横浜市の歴史的建造物にも登録されています。敷地は住宅地にありながら手入れの行き届いた豊かな緑に囲まれ、様々な樹種の木漏れ日が降り注ぎ、そよ風が心地よく吹き抜ける気持ちの良い場所です。

建物外観:大正元年に建てられた建物は横浜市指定の歴史的建造物で、周囲の庭は手入れが行き届き、四季の変化を魅せてくれます。

放置できない建物の「雨漏り」

この母屋には、過去に増改築された付属棟が隣接しており、各種の接合部から雨水が壁を伝って流れ込んでいる所が目視できるほどの状態でした。一般的に、木造建築が解体を余儀なくされる原因は震災や火災だけでなく、雨漏りや漏水もその一つです。これらは木部の腐朽や白蟻被害、植物の侵入を招き、構造体が本来の耐力を発揮できなくなる恐れがあります。

暮らしの記憶を受け継ぐ改修

打合せを重ねる中で、施主から当初の暮らしを偲ばせるエピソードを伺いました。施主が嫁いできた当時、現在は洋間として改装され資料置場となっている部屋は、囲炉裏のある板間だったそうです。他にも、秋田で囲炉裏を囲みながら食べた「きりたんぽ」の味が忘れられないこと、玄関の土間空間を活かした人々のつどい、縁側やお庭で四季を楽しんでいることなど――、建物と共に歩んできた人生の物語が語られました。 そうした記憶を今に活かす改修ができないか。話は雨漏りの修繕から、暮らしの記憶を受け継ぐ、現代の生活に寄り添う改修へと広がっていきました。

改修工事で新しくなった玄関:正面の沓脱石(くつぬぎいし)は、新たに北木石錆石(岡山県産)を据え、長さ3.7mのケヤキの式台を設け、囲炉裏の間への出入りを円滑にするとともに、玄関で腰掛けることもできるようになりました。
(写真左)外部から玄関・囲炉裏の間をみる。外壁の黒漆喰に対して、内壁は白漆喰とし、構造や家具を際立って魅せるとともに、明るい室内を演出しました。
(写真右)増築部の玄関も、古民家と統一感を持たせるため、下見板張りとしています。

建築と住まい手を繋ぐ、職人の技術

既に木部の腐朽が見られる敷石上部の足廻り(土台)については、揚屋工事(※1)の技術を用い、土台の差し替えや柱の根継ぎを行いました。修繕方法は、古民家全体が木組みによって建てられていることを踏まえ、大工の手刻みによる加工を行いました。地震力をしなやかに受け止める伝統構法の良さを尊重し、金物や筋交いによる局所的な補強は避けています。
今回問題となる雨漏りの対策として、雨水の流入を根本的に改善するには、過去の増築部分の撤去など、雨仕舞いを考慮した改修計画が必要でした。新旧の取り合い部分は大工の手加工が不可欠で、屋根の一部やり替えでは既存の母屋(※2)に一本一本新たな母屋を繋ぐなどの現況に合わせた工事を行う必要がありました。

(写真左)間取りの改変に伴い、300mmの成(高さ)のある梁を新たに成360mmの梁で受けています。
(写真右)蟻道となっていた箇所は柱、梁がスカスカになっていたため、欠損部分を撤去し、やり替えています。
(写真左)揚屋工事:既存の構造体をジャッキアップにより持ち上げ、基礎の打設と土台のやり替えを行う。
(写真中央)玄関前の独立柱の根継ぎ
(写真右)腐朽した土台をやり替えました。建物への負担を減らすため揚屋を最小限にし、土台を横から差し込み、その後埋め木処理を施しました。

家具職人の手仕事、囲炉裏と「三本の矢」で作る箱階段

さらに今回の改修工事では、制作部による造作家具――囲炉裏と箱階段(※3)の製作も空間の大きな見所となる要素です。囲炉裏は総ケヤキづくりの拭き漆仕上げ。6名程度が長時間でも負担なく腰掛けられるよう、堀座卓とし、座面と足元には床暖房を設けています。
箱階段はクリ材とし、抽斗(引出し)には軽く丈夫で寸法の狂いが少ないホオを使用。意匠性に加え、クローゼット機能を備え、1~2階をつなぐ階段として安全性を確保することが課題でした。柱や梁に複雑な形状の家具を固定すると、建物の傾きや沈下に伴って歪みが生じ、抽斗や建具の開閉不良、音鳴りの原因となる恐れがあります。そこで考案したのが「三本の矢」作戦です。箱階段を3つのユニットに分割し、それぞれを強固に固定することで一体となった強度を確保。現場設置の際には柱や壁に可能な限り接近させ、隙間なく設置することが可能となりました。

囲炉裏の間:拭き漆仕上げのケヤキを用いた囲炉裏と、クリの箱階段が空間に馴染むよう配慮しました。

これからの古民家:生活に息づく場所

この母屋は、個人の憩いの場としてはもちろん、炭火を囲む飲食の場や、婚礼などハレの日を祝う場としての活用が検討されています。昔から使われてきた漆器に触れ、歴史の厚みを感じながら、かつての暮らしをなぞるような時間――。そんな原体験を味わえる場にしたいと語られています。
今回の改修工事を通じて、古民家は時代の産物としてただ保護するのではなく、少しずつ姿を変えながらも生活の渦中にあり続け、人々の活気によって息づいていくことが理想の姿ではないか、と改めて気づかされました。

玄関土間は既存の土間から御影石貼りにしました。

箱階段の制作担当者が「自分の人生において、まさか箱階段を造ることになるとは思いませんでした」と語ったように、二つとない貴重な体験をさせていただいたことに心から感謝いたしますとともに、多くの方の喜びの場として活用されていく事を願っております。

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