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おしらせ

みちのく平泉の地で、ジャズを楽しむJAZZ喫茶 はだ氷室―Cafeを併設した住居リノベーション事例 ―

JAZZ喫茶 はだ氷室

世界遺産を有する歴史の町・岩手県平泉。その一角に、ひっそりと、しかし確かな存在感を放つジャズ喫茶を併設した住まいが生まれました。
施主は地元・一関の老舗ジャズ喫茶『BASIE(ベイシー)』に足繁く通う、筋金入りのジャズファン。かつて家族と過ごした実家を、音楽と文化が交差する拠点として生まれ変わらせたい——そんな思いが、このリノベーションの出発点でした。

ライブ感”を空間で表現するために

少しレコードについて書かせていただくと、1950年代以前のレコードの録音プロセスというのはライブセッション形式で行われ、ミュージシャンが一斉に演奏する形で録音されたそうです。会場内の迫力や、演奏者全員の即興性がそのまま記録されるため、ライブ感、躍動感あるいは一体感をより強く体感することができるといいます。このたびの設計にあたり、どこかにその特徴が表現できないかと考えました。

眺望を生かした、開放的なワンルーム空間

現状の建物は東西に延びた長方形の建物で、南側には庭が広がり、その先には田んぼ、そして山の麓までを背景に取り込む、眺望の良い立地です。
今回の改修では各個室の間仕切壁を可能な限り取り払い、東西に延びる大空間としました。また、既存のサッシ窓を改め大きなガラス面とし、南側の眺望へと大きく開いた室内空間を目指しました。それにより喫茶空間が大きなパノラマの眺望を取り込み、自然光のぬくもりや五感に訴えかけてくる四季の移ろいを感じさせる・・・ それはジャズのもつライブ感や、躍動感と重なるところでしょうか。
腰から上の壁面や天井を白色とし空間の要素を制限することで、眺望の様々な要素を、妨げることなく純粋に楽しむ手立てとしています。

エントランスから入り南面の庭を見る
エントランスから入り南面の庭を見る
大ガラス面からパノラマの眺望が視界に飛び込む。手前テーブル、窓際のベンチに座るとまるで野外ライブフェスティバルのような感覚でジャズを鑑賞できます。

木の質感と陰影がつくる、リズムある空間

対して、空間構成はあくまでシンプルに保ちながらも、奥行きや陰影のある、リズムを感じる場となることを目指しました。たとえば、喫茶中央のカウンター天板や、その後ろのキャビネット天板、各テーブル・椅子、また、天井の化粧梁など、落ち着きのあるブラウン塗装とすることで重厚感をもたせ、またそれぞれの特徴となる広葉樹の木目の存在感により、空間に彫りの深い奥行きを生み出すことに注力しました。

さらに、リズム感や抑揚を空間に生み出す仕掛けとして、天井に連続する化粧梁や柱を設けました。なかでも、2本の丸柱には手の触れる高さに籐を巻き、この喫茶スペースのハイライトとなるよう意識しています。

西側に向かって店内を眺める
西側に向かって店内を眺める
天井の広葉樹の化粧梁が定間隔で並び、それとは対照的に椅子やベンチのスピンドルによる背もたれがランダムさを演出する。その奥には丸柱とカウンター、施主コレクションのアルバムと書籍群が並ぶ。このような視線を引く要素が積層し、奥行感のある空間を目指しました。

ジャズと本に囲まれた、くつろぎのひととき

テーブル席に落ち着き、壁面を見渡すと、喫茶スペース壁面には、レコードとともに施主の書籍ストックの量感をそのまま視覚に表す棚があり、隣のバックライトを仕込んだ飾り棚に視線が移っていきます。反対側の壁面上部にはJBL製スピーカーがあり、レコードの音が遮るものなく空間を満たします。その下には、施主のコントラバスが置かれた、実際に演奏可能なスペースを設けました。

喫茶中央の大カウンター越しに書籍・レコード棚を見る
喫茶中央の大カウンター越しに書籍・レコード棚を見る
カウンター天板には、厚み40mmを超えるナラの無垢材を用いています。大きな塊としての存在感があり、対照的に、奥に配した書籍・レコード棚には多種多様に並ぶ、密集したコレクション群が空間に抑揚を与え、遊び心を演出しています。
喫茶中央の大カウンター越しに書籍・レコード棚を見る
テーブル越しに東側に向かって店内を見る
テーブルは調色したブラウン塗装された広葉樹材。左側はバックライトを仕込んだ飾り棚が設置され施主のコレクションが並びます。壁面上部にはJBL製スピーカーが設置され、上質な音響空間を演出しています。

設計担当者より

この土地ならではの、平泉の自然を光の中で受け止めながら、質の高い音響環境でジャズを鑑賞する・・・ その時その時の魅力ある空間を、ぜひ皆様も訪れて体験していただければと思います。

最後に、築50年以上を経た建物を改修できたのは、職人の織成すその技術や人柄の賜物だと思います。(50年と言う月日が経過しているので、建物は3次元的に歪んでいます。
とくに精度を要求する引き戸廻りの建具枠の取付けは、新築と比べて難易度が格段に上ります)そして、施主が私たちに与えてくれた機会と、それを現実の下に現出できた職人の技術と心意気に感謝いたします。

JAZZ喫茶「はだ氷室」情報

住所:〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉祇園63−5
営業日:不定期 営業時間:10時-17時
Instagram:@hada.himuro
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