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森と人を繋ぐ木製イス〜Mori:toチェア開発秘話〜

森と人を繋ぐ木製イス・Mori:toチェア


Mori:toシリーズは、「森と人を繋ぐ」というコンセプトを基に、2つの言葉を合わせ「Mori:to(mori+hito=モリート)」と名付けました。
創業以来、持続可能な循環型社会の実現を目指したオークヴィレッジならではの家具シリーズです。
今回は、同シリーズの原点である国産材を活用した木製イス「Mori:toチェア」の開発プロセスを制作者の視点からご紹介します。

今の日本の森と人を繋ぐイス

私たちが1974年の創業以来一貫して国産材に拘ってきたのは、木という再生可能資源を活用したモノ造りで日本の森林の健全化に寄与し、持続可能な循環型社会を実現するためです。
戦後75年が経過し、拡大造林政策により植林されたスギやヒノキは今まさに伐期に差し掛かっていますが、かつて薪炭林として適切に活用されてきた里山も荒廃した状態で日本中至る所に放置されています。 適度に木を伐り林齢を更新させることが森林環境の改善につながるという見地から見れば、植林された針葉樹はもちろんのこと、放置林の広葉樹活用も重要な課題です。
国産材を活用した木製イス「Mori:toチェア」をの開発に当たっては、そのような状況下にある広葉樹を適材適所の考え方に則って有効活用することで、より使いやすい家具を生み出すと同時に、現在の日本の森林状況の改善に具体的に繋がる事例とすることを目指しました。

「Mori:toチェア」の開発に携わったオークヴィレッジのメンバー

群馬県みなかみ町との協働

群馬県みなかみ町は日本最大級の河川の一つである利根川の源に位置し5つのダムを有する首都圏最大の水源地であり、2017年には地域の暮らしと自然との共生への取り組みが認められ日本で9番目のユネスコエコパークに認定されています。同町内には、かつて薪炭用のコナラを中心に20〜30年周期で計画伐採されてきましたが、エネルギー革命による需要低下に伴い人の手が入らなくなって50年以上が経過し、胸高直径20cm〜40cm程度に成長した広葉樹が無造作に生育する放置林が多くなりました。
近年では山の所有者と有志を中心に森林環境を改善するため「自伐型林業」による施業に取り組んでおり、同町はその後押しを行っています。「自伐型林業」とは、皆伐型の大規模な林業ではなく、森林生態系を維持しながら小規模に施業を行う、環境保全と経済性を両立させる持続可能な林業の形態で近年特に注目されています。森林の遷移を促すため計画的に樹木を残すよう抜き伐りし、伐り出した樹木を家具用材等としてより付加価値の高い販売を行うというものです。

群馬県みなかみ町
群馬県みなかみ町

私たちは2018年12月にみなかみ町と包括的連携協定を締結し、ここから伐り出された広葉樹で木製品を製作すること等による同町の森林環境改善を実現するための協働を始めました。
日本百名山の一つ谷川岳を有することもあり町内だけで1900mもの高低差がある森林には多様な広葉樹が生育します。ブナ、ミズナラ、コナラ、ミズメ、サクラ、カエデ類、クリ、セン、などですが、みなかみ材を使った木製イスを開発するにあたり、着目した材はコナラとクリでした。数量が確保できる目処が立ったことはもちろんですが、この2種については、他地域の同様の材と比較しても真っ直ぐに伸びた樹形の整ったものが多いため歩留まりも良く、用材として特に魅力的でした。クリは既に当社の折りたたみ家具他でも十分使用実績があり問題はありませんでしたが、コナラを家具用材に採用することは、私たちにとって新たなチャレンジとなりました。

コナラの家具用材化への取り組み

日本に「ナラ」と名がつく樹木は2種類あります。それがミズナラとコナラです。
ミズナラは北海道や東北から本州を中心に山地に見られ、特に昭和期以降は家具用材の筆頭として盛んに活用されてきました。私たちも社名に冠し創業当初から一貫して使用してきた最重要材の一つです。 対して、コナラは日当たりの良い里に近い山野に広く成育し、薪炭用として重用され、長らく日本の里山文化の中では重要な位置を占めてきましたが、家具用材としては捉えられてこられませんでした。

コナラ(みなかみ町の地場にて)
コナラ(みなかみ町の地場にて)

飛騨は家具の産地として知られていますが、これは戦後の復興期に地元産のナラやブナ等の広葉樹を用いたイスをアメリカ他海外に輸出し外貨を稼ぎ生産規模を拡大してきたことが背景にあります。飛騨の匠のDNAがなせる技か、家具の中でも特に加工難度の高いイスを得意とし、曲木に代表される世界的に見ても高い独自の加工技術を磨きそのブランドを確立してきた。飛騨で生産されるイスにはナラを素材に使用したものが多くあります。粘りが強く、曲木に向く木の性質が特にイスには適しているためです。ただし、この場合のナラとは、かつてはミズナラであり、近年は輸入材のホワイトオークです。コナラは家具製造に携わる者の中では全くの不人気で、長らく、「硬い」「大径木にならないため歩留まりが悪い」「乾燥が難しい」「曲木ができない」→『だから使えない!』というのが定説でした。
しかし、改めてこの素材と向き合ってみると、ミズナラと比べて硬さも遜色なく、ブナ科の木に特有のしなりも相応にあることから、経験的に、乾燥ができれば木製イスの部材として性能を発揮する、むしろ十分に向きのある素材と判断しました。

(左)製材後の桟済みの様子/(右)コナラ特有の硬さとしなりを活かすため、柾目挽きの材を使った木製イスの背面のスピンドル(丸棒)

用材化に取り組むにあたってはまず木取りに工夫を凝らしました。コナラの50年生程度の材は若く白太(年輪の外側の新しく若い層)が多い状態です。白太は乾燥中にねじれや狂い、割れが生じやすく扱いにくいが、他の商品で生かすことも併せて無駄なく使用するために、小径の丸太を手間のかかる柾目挽きにしました。背中の当たる部分の細いスピンドル(丸棒)と丸脚を木目が切れない柾目に製材することで折れにくくコナラ特有の硬くて良くしなる特徴を生かすことができます。
このことによりイスに座る際や、着座中に脚を組むなどの動作により発生する動荷重を適度なしなりで受け止めることができ、柔らかな着座感を生み出します。また、難しいと言われてきた乾燥においては、1本1本木を見、丁寧に製材から乾燥まで手間を惜しまず管理することにより安定した一定の含水率に達することに成功しました。

デザインソースと構造のポイント

このイスの原型は世界中で最もポピュラーなものの一つ「ウィンザーチェア」です。17世期後半にイギリスで生まれその後アメリカで進化を遂げ、そこから広く世界中に広まったものです。かつて高度な加工設備が無かった時代に、座板を削る鉋と、穴を開けるドリル、丸い棒を挽く足踏み式の旋盤があれば作ることができた簡素な構造のイスです。それをベースに、乾燥と湿潤を繰り返す気候により適した木組みを採用することで日本の気候に合った新しい構造の木製のイスを目指しました。

笠木の組み立ての様子
笠木の組み立ての様子

最大のポイントは座板に施す蟻桟です。主にテーブルの天板などに木の伸縮は妨げず反りを防ぐために用いる、私たちが最も得意な木組みの手法の一つだが、これを座板に用いることで座板の反りを止めるだけでなく、脚と座板を繋ぐ構造部材にすることができ、通常のイスには必要な座面下の幕板という部材を省略でき、イス全体の大幅な軽量化に繋がっています。イスは6kgを境に、そこを超えると重く感じるようになるという調査結果があるが、これは座面も含め全て木製であるにも関わらず総重量は5.3kg程度と見た目からは意外性を感じるほどの軽さを実現してました。

椅子の座面裏
座面裏 蟻桟ー脚部分の組み立て

持続可能な社会を目指して、国産材を使用したモノ造り

創業当初の私たちは飛騨であまり見向きもされていなかったミズナラを、その魅力を最大限に活かすよう使い家具製作を行なってきました。それから50年を経て私たちを取り巻く材料事情は大きく変化し、当時は適価で入手できたミズナラは今では高級で希少な材料の筆頭格となり、かつてのような大径木もほぼ見当たらなくなっています。 しかしミズナラを使うことと同時に適材適所の視点で様々な樹種の木材化の可能性を追求し続けてきたことにより、今では他に類を見ない、常時20種類程度の国産材を使用したモノ造りを行うようになりました。

Mori:toチェア

木製イス「Mori:toチェア」の開発にあたりコナラに取り組んだことで、また新しい材料の活用機会が生まれ、雑木と呼ばれる規格外広葉樹の有効活用の可能性も広がりました。
近年はSDGsなど、エシカル(倫理的)なデザインやモノ造りといった概念が、社会において重要性を増しています。私たちは今後もその観点から、技術力と適材適所の考え方で豊かな暮らしを実現し、かつ日本の森林事情改善につながる木製品を創出していきたいと思います。

商品情報

Mori:toチェア

Mori:toチェア
[サイズ]
幅49×奥行53×高さ85cm(座面の高さ40.5cm)
[材 種]
(座面)国産クリ/(笠木・脚・その他)国産ナラなど
[仕上げ]
植物性オイル(ナチュラル)
[重 さ]
約4kg

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