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おしらせ

海を渡ったKOMAKO~木組みの文化をヨーロッパに~

ベルギーにあります、ホーゲント大学の山崎様と『KOMAKO』を通してご縁があり、寄稿いただいた記事をご紹介させていただきます。

HOGENT大学 Future throuth Design研究所
ディリク・ヴァンゴッホ マリナ・イー レネ・ヴェルスクラーグ コルネル・デュ・コルテ 山崎 宏子

ヨーロッパに到着したKOMAKOは、
デザインを学ぶ学生・教員専門家に、
インスピレーションを与え始めています

オークヴィレッジ様の理念やご活動を、日本から取り寄せた書籍や「寄木の積木」をはじめ、ウェブサイトや記事を通して知り、一同で感動し、一通のメールで研究へのご協力をお願いしたのが始まりでした。

 木工や木造について、ほとんど無知で素人である私どもの突然の依頼に、耳を傾けてくださり、KOMAKOのベルギーへの輸出のために、さまざまな部署の方に尽力いただき、また後日には、KOMAKOの背景である日本の伝統構法の建築についてもご教授いただきました。

 KOMAKOの実物を、ベルギー現地に送っていただけたことで、日本の木、職人の方による加工、空間デザイン、建築と木組みの構造を、実物を通して、また私たちの感覚を通して、研究できる機会に恵まれました。KOMAKOは、木のパーツを組み立てて、美しくかつ機能的な空間ができあがる、日本的な建築の象徴のようです。

 オークヴィレッジのご活動を研究しながら、木のいのち、木のライフサイクル、自然、それをどう大切に扱っていくかということに、気づかされました。以前は、木の素質を敬うよりも、産業プロセスなどを動機にして、家具のデザインを考えていました。木のもつ特徴、また木が人間の五感とつながること、そういった自然に沿いながら、形を与えデザインしたいという思いになれたことに、ありがたく思っています。また、ご創業からこれまで48年間も、社会のなかで、理念を事業として実践されてこられたことに、大きな励ましをいただいております。

 私たちは、「日本に触発された循環型デザイン」というテーマで、2019年から3年間、フランダース政府から実践応用研究の予算をいただき、研究する機会を得ました。
 ベルギーの家具インテリア産業では、生産↓消費↓廃棄という直線型の経済活動が主流です。
この現状において、デザイナーの責任は大きく、EUの循環型経済への行動計画でも、環境への影響の80パーセントが、デザインの初期段階で決まることが指摘されています。
 今回の研究では、循環型デザインの重要な要として、「分解しやすいデザイン(Design for Disassembly)」に着目しました。デザインの初期段階から、分解しやすさを考慮し設計することで、ライフサイクルの中で、製品を修繕・改善・再生しやすくなり、サービスの充実、個々人の嗜好や環境変化に合わせた製品の改善や拡張の可能性も広がります。

 また、日本の伝統的なものづくりや生活文化に、「分解しやすいデザイン」が、高度に洗練されたかたちで何世紀にもわたり育まれていることから、今回は特に、「風呂敷、木造建築や木工の木組み、折り紙の、折り畳み・組み立て・分解技術」にも着目しました。
 日本から触発された要素を、ヨーロッパの現代デザインにどのように融合できるかの試行錯誤を重ねました。

 風呂敷は、一枚の四角い布で、ものを包み、結ぶ。包んだ後は、結びを解き、また使い直す。その洗練された包み方をはじめ、包む前も美しく、包んだ後も美しくなるよう熟慮された意匠も、とても興味深いです。何度も包む練習をしながら、ソファを包むテキスタイル部分に応用できるか、カバンや収納にどう取り入れられるかなど、可能性を探りました。

 木組みでは、木工と木造の広大な分野に圧倒されながら、文献研究と並行して、木組みのモデルを試作することを入り口に研究をはじめ、その後、多機能性と柔軟性をもつ家具システムやランプを、無垢の木の部材だけを組んで構成することを試みました。日本のオークヴィレッジ様はじめ、ベルギーの木材・製材の専門家、木工家や修繕家の方にもお話を伺うなか、木それぞれの特徴を学んでデザインに活かす必要性、また持続可能であるためには、木材が由来し還る森林を考慮する必要性も痛感しましたが、これからの課題です。

 折り紙には、一枚の紙を折り畳んで立体をつくる、さまざまな技術がありますが、今回は特に、折った紙を組み合わせて立体をつくるユニット折り紙やくす玉、またコンピュータグラフィックスで設計された美しい折り紙も参考にさせていただきました。ここでも実際に折り紙を試作することからはじめ、
その後、座るオブジェクトとランプシェードへの応用を試みました。

紙の折りたたみによる
ランプシェードの試作

アイディアの創出は、手書きやCADでスケッチの後に、手作業中心に、スケールモデルを試作し、最終的には1/1のモデルを試作しました。

この研究の過程を公開し紹介するため、2022年5月19日から3日間、弊大学の美術・デザイン学科のあるBijlokeキャンパスの大ホールで、展示を行いました。
インスピレーションの源となった日本の風呂敷、木組み、折り紙と、進行中のデザインアイディアを、
全て織り交ぜる展示構成で、ご紹介しました。

 デザイン科の学生や教員、インテリアやテキスタイルやファッションなど各分野のデザイナー、木工家、建築家、デザインジャーナリストの方など、3日間で100人以上の方が訪ねてくださり、貴重な反応や評価をいただきました。

 オークヴィレッジ様のKOMAKOも、日本の木組みの象徴として、紹介させていただきました。ひと目見て、「美しい!」と感嘆される方が多かったこと、木組みの構造はもちろん、オブジェクトから受ける感覚や雰囲気、空間や形の与え方、機能性、木の香りや感触にも、興味を持たれる方が多かったことを特筆いたします。
来場者アンケートでも、KOMAKOをベルギーで見ることができてとても良かったという声が、多数寄せられました。いただいたコメントを、いくつかご紹介いたします。

 「KOMAKOは、日本のデザインが、インテリアとエクステリアを結びつけていることを示す素晴らしい好例だと思います。日本にはインテリアとエクステリアをつなぐ間があり、これは私たちはやらない
ことです」(インテリアデザイナー)「日本のデザインは、非常にシンプルな構造で、美しさを形づくれることを、ぜひ学生たちに伝えたいと思います」(デザイン概論講師)
「木が私に、心地よさを与えてくれることを、改めて感じました」(美術科学生)
「シンプルに木だけを組んで形がつくれる、木組みの技術が美しくて感動しました」(デザイン科学生)

 私どものデザイン提案も、簡単に、ご紹介させていただきます。
 一つは、「モジュラー家具」。これは木の4種類の部材と接続部材を組んで、ソファー、机、寝椅子など、多機能な家具を提供するもので、家具の修繕・改善・再生の循環システムのデザインも含めた提案です。
 この案については、さらに2年間の研究予算をいただけることになり、家具産業で活用して頂けるまでに、デザイン提案を洗練できるよう、研究を続けて参ります。

 二つめは、「木組みで支える折り紙ランプ」。紙、折り、木組みの美しさを強調したランプの製作
を試みました。木組みの部分は分解でき、組み方を変えることでランプシェードの角度の調整と、栓で
高さの調整も可能です。別モデルでは、木組みを外す・組むことで、小さいランプ、背の高いランプの二通りに、使用できます。
 ランプシェードは、折り紙の技術を応用しながら、接着剤やテープなど使わず、折りたたみと組み立てだけで製作する努力をしましたが、完成形はまだ模索中で、ドイツの職人の方が漉かれた手漉き紙で最終製作の予定でしたが、産業紙での公開となりました。

 三つめは、パッケージや使い捨ての袋を減らし、布を使って、買い物の収納や運搬をサポートするインテリアの提案です。使い捨てのプラスチック袋や紙袋でなく、布を使い続けながら、店と自宅間の運搬、店と家での収納をサポートできないかと考えました。試作した収納棚はランプと同様の木組みの構成です。テキスタイルと袋のデザインは完成できなかったため、展示では、日本の風呂敷会社様の風呂敷をバック式に包んだ例を、合わせて紹介させていただきました。

 これらデザイン提案に、来場者の方からは、家具に多機能性・柔軟性・可変性を持たせること、また無垢の木だけでの構成、ランプの美的な形などに、好意的な評価をいただきました。

また、今後の課題として、日本のインテリア・空間デザインの豊かな知恵の一つに、一つの部屋で様々な機能を可能にするための多機能性や、開放的な空間を畳で仕切るなどの柔軟性があるのに、今回は家具オブジェクトのデザインに留まり、空間デザインまで考慮できていないことの指摘も受けました。

 その後、ゲント市と大学から依頼を受け、今回の展示を、この9月にもう一度、3週間にわたって、展示させていただけることになりました。今回は、デザイン関係者だけでなく、一般の方もお越しくださる予定で、より伝わりやすい展示を工夫したいと思います。

 循環型の家具・インテリアの実現に向けて、少しずつの歩みでありますが、これからも研究を続けて参ります。自然素材を用い、素材をできるだけ長く使い続ける。全工程で環境への負荷をできる限り少なくする。形の美しさや機能だけでなく、設計から形づくり使い続けて自然に還るまでのライフサイクル全体を配慮する。現実的な多々の課題を、デザインを通して、総合的に解決できるよう、実際の産業や社会の現場におられる方々、学術研究分野の方々、教育機関の方々、生活者の方々にご協力いただきながら、研究を続けて参りたいと思っております。

ホーゲント大学(HOGENT)は、ベルギーの歴史的な街ゲント市にあり、1995年に複数の学校を統合して設立されたフランダース政府の応用科学大学です。音楽・デザイン・芸術学部、また市の美術館やコンサートホールが共存する複合施設であるベイローク(De Bijloke)にある大学キャンパスにFutures throuth Design研究所があり、今回の展示会も同キャンパス大ホールにて行われました。

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